キャッシュで家買えるくらいの現金が金庫に入っている

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うちに初めて遊びに来た友達に必ず聞かれるのは、「アレ、何入っているの?」だ。アレ、とは金庫のことを指す。私は賃貸マンションに一人暮らししている。家賃10万円、駅からの距離と間取りを考えたらこの辺りでは相場の金額だけど、大学生の身分でこの家賃の物件に住めるというのは贅沢なのかもしれない。

大学生の一人暮らしの部屋に金庫というのは、病室にダンベルがあるのと同じくらい違和感があるらしく、冒頭の質問を必ずされる。そのたびに私は「おばあちゃんの形見でもらったんだけど、中身は空っぽなんだ」と答えていたが、そうすると「中身見せて」と言ってくる人もいるので、最近では「中にはおばあちゃんの遺影が入っているんだ」と答えるようにしている。そういう答え方に変えてからというもの、中身を見せてという人はゼロだ。もちろんおばあちゃんの形見というのも、中身が遺影というのも嘘だ。おばあちゃんが亡くなったことは事実だけど。

実は金庫の中にはキャッシュで家が買えるくらいの現金が入っている。どうして私がそんなに現金を持っているかと言うと、おばあちゃんが亡くなったときの遺言に、遺産の一部を私に渡せという一文が入っていたからだ。おばあちゃんは資産家だったおじいちゃんの家に嫁ぎ、先におじいちゃんが亡くなっていたのでお金はたくさんあったらしい。たくさんいる親戚の中で、どうして私を名指ししたのかはわからない。おばあちゃんの子供たち、つまり私の父親やその兄妹にももちろん遺産は分配されたけれど、それ以外で遺産を貰えたのは私だけだった。私には従姉妹だって弟だっているというのに。だけどそれが原因で従姉妹や弟とギクシャクしたこともあったから、遺産をくれたのが善意だったのか悪意だったのか、おばあちゃんの真意は闇の中だ。

まだ怖くて一円も使っていないけれど、いつか来るその日まで、金庫は開けないでおくつもりだ。